| 高齢者のがん治療と緩和ケア | ||||
| 「高齢者のがん治療と緩和ケア」 |
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東札幌病院 石垣 靖子 |
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1.人口の高齢化とこれからのがん治療 厚生省「地域がん登録」研究班によると、今年2000年に新しくがんと診断される人は59万人を越え、その半数は70歳以上と予想している。 現在がんと診断された人は約200万人ともいわれているが、その内完全治癒を目指した治療を受けられた人は多分20%にも満たないだろう。 そうすると大部分のがん患者は慢性期から終末期にあり、広義の緩和ケアの対象ということになる。 (図1)がん医療における緩和ケアは、ますます重要性を増してきた。緩和ケアは年齢を問わず患者のQOLを基盤にし、 その時可能でベストの治療ケアを行うことを目的としている。「死を早めることにも、遅らせることにも手を貸さない」とWHOが提唱しているように、 その時対象が持っている総合的な予備能力を見極め、できるだけ生命力を引き出すような治療ケアを行うことが緩和ケアの重要な役割である。 高齢者は攻撃的ながん治療に対してリスクが大きく、がん治療の方法には特別の配慮が必要になってくる。高齢者のがん治療に関しては、 限られた余命のQOLを尊重したがん治療の定着が課題である。 | |
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2.「天寿がん」研究と緩和ケア 「さしたる苦痛なしに、あたかも天寿を全うしたように人を死に導く超高齢者のがん」1)と定義される天寿がんの研究は、 今後の緩和ケアのありかたを示唆する重要な研究となるであろう。天寿がんの思想は「がんの発生は長生きの税金のようなもので、 ある程度までは避け得ないものであるとするならば、超高齢者のがん死は、人の一生の自然な終焉の一つのパターンとも考えられる。 そうであるならば、超高齢者の苦しみを伴わないがん死は、人の死に方として必ずしも悪くない選択となり、 天寿がんとわかれば攻撃的治療も無意味な延命も行わず自然に徹する」2)というものである。我々は北川班に参加し以下の報告をした。 1)天寿がんの頻度 我々は1997年「在宅がん医療の合理的システムの開発に関する研究」(がん集学的治療研究財団 特定研究22)を実施した。 全国26施設の協力を得て登録のあった進行・末期がん患者208例に対し、(1)死亡時年齢85才以上、(2)患者満足度(QOL総合評価) は11段階(0〜10)で10、(3)身体症状17項目、4段階評価で0〜1(なし、時々あるが支障なし)、(4)精神症状、4項目同じく0〜1で痴呆なし (5)攻撃的治療を受けずの5つの基準をもとに天寿がんの頻度を調べた。208例中85歳以上は18名で、その内5名(5/208)が天寿がんと判定された。 5名の患者はすべて告知され、がんの種類は、肝がん2例、胃がん、肺がんおよび膀胱がんが各1例であった。 また、東札幌病院の末期がん患者239例についても同基準で調査したが、天寿がんは1例もなかった。 高齢者で在宅ケアに移行できる患者は比較的症状がおちついているか、あるいは症状がないことが多いが、 天寿がんはこのような集団ではかなりの頻度で存在することが明らかになった。北川らによると我々のデーターを基にして天寿がんの頻度は、 おおまかにいって我が国のがん死亡の1000例に数例と予想している。3) 2)準天寿がん 天寿がんの頻度はあまり高くないことがわかったが、今後天寿がん研究が進むことによって、 多くのがん患者が天寿がんや準天寿がんの候補になり得るだろう。それは緩和ケアの進歩と天寿がん思想の定着が相俟って実現できることである。 今後、(1)超高齢者のがんの自然死を明らかにする、(2)がんの個性を明らかにする、(3)天寿がんの診断基準を明らかにする、 (4)天寿がんに導く治療法を明らかにする等の研究が早期に達成されることが期待される。それはとりもなおさず多くのがん患者にとって、 「がん」という恐怖から解放され、がんが慢性疾患として実感できるようになることでもある。 | |
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3.在宅ケアをうける高齢がん患者の特徴 在宅に移行できる超高齢者に天寿がん患者が多いと述べたが、 がん治療の進歩とインフォームド・コンセントの定着等により在宅で療養するがん患者は年々増加している。 そのため、患者や家族が望むならば、いつでも質の高い在宅ホスピスケアが受けられるようにシステムづくりをすることが急務であると考える。 前述した「在宅がん医療の合理的システムの開発に関する研究」では、有効登録症例208例中、70才未満107例、70才以上101例に分けて、 高齢がん患者の特徴を検討してみた。その結果、両者には有意に差があることがわかった。例えば身体症状のうち「不眠」は70才未満では、 「よく眠れる」は在宅移行時36%で、週を経る毎に「全くねむれない」が増加している。しかし、70歳以上では在宅移行時から50%以上が「よく眠れる」 と答え両者に有意差が認められた。(図2) 精神症状でも「不安」に有意差が認められ、在宅移行時70才未満では「不安なし」が17%であったが、 70歳以上では最初から50%あり、週を経てもあまり変化はなかった。 70才未満では在宅移行6週後では「不安がだれの目にも明らか」が増加している。(図3) また、満足度調査では、70才未満、70歳以上ともに満足度が高い「8以上」がやや増加している。しかし、 70才未満では5以下の症例が6週後には増加の傾向にあるが、70歳以上ではむしろ減少している。(図4) 一方介護者の満足度をみてみると、70才未満では10がやや増加し、3以下が減少し介護者の満足度が高いことがうかがわれる。 しかし、70歳以上では逆に10が減少傾向にあり、3以下が増加している。(図5) これらの結果から、70才未満では心身の症状に変化があり、 急変時の対応や在宅で療養することへの不安、それに伴う不眠などにも対応するケアが必要である。 精神科医や臨床心理士等によるケアが適切になされると患者満足度の向上につながるだろう。また、70才未満の平均在宅療養期間は47.6日、 70歳以上は73.0日と差異があった。70歳以上患者の介護者満足度を高めるためには、介護者が時折休養できるような対策(レスパイトケア) 等が考慮されるとより良い状態で介護が継続できると思われる。総じて70歳以上の患者は在宅ケアに移行しても症状の変化が緩慢で、 療養期間も長く満足度も高い傾向にあった。4) | |
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4.高齢者のがん治療と医療モデル がんは従来、診断がついたときには既に予後が短く、少しでも延命をはかる治療が優先してきた。 しかし、これまで述べてきたように今や慢性疾患として位置づけられるようになってきた。 すなわち、医療モデルも急性疾患型から慢性疾患型へのシフトが必要であり、それは生物医学モデルから社会科学モデルへのシフトを意味する。 社会科学的に医療を行うということは、医療の対象である人間をただ単に生物学的側面だけでなく、精神・心理学、 社会学そして倫理的な側面をも含めたアプローチが必要になる。対象の年齢や性、病気に対する理解やセルフケア能力、固有の生活歴や価値観、 それに基づく意思などが尊重されなければならない。医療者と目標を共有し共同行為としての医療が実現されることであり、 それは多職種によるチーム医療によってのみ可能となる。生活の営みを整えることに高度の専門性が期待される看護の役割はますます大きくなる。 | |
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5.End of Life Care(EOL)とスピリチュアリテイ 高齢者、特に後期高齢者は生命予後が限られており、当然人生最期のときのケアに対する関心は強い。 今後高齢になる世代は自分の人生に対する主体的な意思を持つ人が多く、質の高いEOLケアはどの医療や福祉の分野でも大きな課題となろう。 世界のがん治療をリードするAmerican Society of Clinical Oncology(ASCO)でも1998年の年次総会で "Cancer Care During the Last Phase of Life"のタイトルで ASCOとしてEOLに積極的に取り組む姿勢を表明した。 がん治療はどのステージに行われようと、患者を一人の人間として遇することがますます重要になる。患者の価値観や意思が尊重されるためには、 医療者の成熟が重要であり、特にスピリチュアリテイの尊重に関して、今後緩和医療の場では大きな課題になるだろう。 WHOは最近「健康」の定義に身体的、精神的、社会的のみならずスピリチュアルな側面でもwell beingであることを加えた。 人間は必ず死ぬという医療の限界をふまえて、高齢者のがん治療の主流になる緩和ケアは、今後医療の世界に人間尊重の「静かなる革命」 をもたらしたいものである。 引用・参考文献 1.北川知行:自然死と天寿がん、緩和医療、Vol.2,No.1,71,三輪書店、2000 2.同上:72 3.同上:73 4.研究報告:特定研究22「在宅がん医療の合理的システムの開発に関する研究」財団法人 がん集学的治療研究財団、1998 5.石谷邦彦:日本における緩和医療の変遷〜序にかえて〜、緩和医療、Vol,1,No.1,19,先端医学社、1999 |
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